今年は梅雨が長く、各地で豪雨被害をもたらしました。京都でも長期間晴れ間が見られず、時に警戒情報がでる大雨も降りました。
 そんな大雨の後、高野川畔を歩いていると小さなカメがよちよち歩いていました。雨で増水した川を逃れて、遊歩道を歩いていたようです。これまでも何度かカメに遭遇したことはありますが、こんな子亀は初めてです。迷った末、家に連れて帰ることにしました。カメに興味がありましたし、飼いきれなければまた元の高野川に戻ってもらえばいいと考えたのです。

こちらが家に連れ帰った子亀。
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 甲長は4.2㎝。調べるとイシガメのようです。長いしっぽ、ギザギザの甲羅の縁などが特徴です。ダイソーで買ってきたカメの餌をやると最初は受け付けませんでしたがすぐに食べるようになりました。100均でこんなものまで売っているのですね。
 当初は飼育容器の環境が気に食わなかったのか出してくれと暴れていましたが、中に隠れ場所を作ってやるとほとんどその中に隠れて過ごすようになりました。結構臆病なようです。

 さて、日本の陸水にいるカメについてメモしておきましょう。
 このイシガメは正真正銘、日本固有のカメです。正式にはニホンイシガメ。いわゆるゼニガメと称して売られていたものは基本イシガメの子亀だったようです。形が銭に似ていたため。

 次にクサガメ。こちらも日本のカメの代表です。名前のクサは草ではなく臭。悪臭を放つことからの命名です。外見はイシガメとよく似ていますが甲羅に3本の筋状の隆起(キール)があることが特徴です。日本原産と思われていましたが、近年朝鮮など外から持ち込まれた可能性が取りざたされています。日本では化石が見つからないこと。江戸、明治時代には希少で西日本、南日本などに分布するとの記述があるようです。イシガメとは同じイシガメ属と近縁で、交雑し、合いの子(ウンキュウと呼ばれる)が見つかることもあります。このように交雑種が見つかること自体、クサガメが近年日本に入ってきたことを暗示させます。古くから共存している場合、その2種間には交雑が起こらないような隔離が発達している場合が多いのです。
 
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 宝ヶ池のクサガメ。甲羅の中央と両脇に3本の縦の隆起(キール)があるのがわかるでしょうか。首周りの黄色の模様も特徴です。

 イシガメ、クサガメの2種が日本の池などにみられるカメの代表だったわけですが、近年この状況が大きく変化しています。それがミシシッピアカミミガメ(アカミミガメ)の台頭です。こちらは名前の通り北米原産。何故このカメが増えたかというと、それは縁日などで広く売られているミドリガメがこのカメだったためです。緑色の小さなカメは子供たちの格好なペットとして広くいきわたりました。そして成長して飼い切れなくなり、安易に池などに捨てられたわけです。繁殖力も旺盛で、日本の環境に適応して、おまけに在来種のカメの卵を食べてしまうこともあるようです。おかげで日本全国、池にいるカメの多くがアカミミガメという状況になってしまいました。在来のカメ、とりわけイシガメの減少は著しく、準絶滅危惧種となっています。ちなみにアカミミガメはイシガメとは遠縁で交雑する心配はありません。

 こうした状況を受けアカミミガメは「要注意外来生物」(外来生物法)になっています。しかし。より注意が必要な外来生物として「特定外来生物」に指定されているカメがいます。それはカミツキガメです。身の回りでは目につきませんが、印旛沼など一部の水系では定着しているようです。こちらも元はペットとして移入されたものが野外に流出したものです。大型になり、凶暴で名前の通り人にかみつくこともあり、魚なども食害します。アカミミガメも在来種に対する被害の状況をみれば特定外来生物に指定されてしかるべきと思いますが如何に。ちなみに特定外来生物に指定されると輸入、飼育、販売などが規制されます。

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 京都御苑の九条池で甲羅干しをするカメたち。
 写っているカメはすべてアカミミガメと思われます。目の後ろ、首に赤い模様があるのが特徴です。ここではほとんどがアカミミガメですが、宝ヶ池ではアカミミガメが7割、残り3割がクサガメといった感じです。

 以上、日本のカメ界の歴史をまとめてみると以下のような感じでしょうか。
 古来日本にはイシガメだけが住んでいました。そこにクサガメが移入してきて、徐々に分布を広げイシガメを圧迫していきました。また共存する場所では交雑する場合も出てきました。しばらくは2種の共存状態が続きましたが、近年、アカミミガメが、さらにはカミツキガメが人間の手で侵入してきました。そしてイシガメ、クサガメの平和な共存状態も崩壊。アカミミガメの天下となりましたとさ。

 イシガメは減少が著しいと言われていますが、案外しぶといかもしれません。飼っていても気が付きますが、臆病で人目につかない場所に潜んでいることが多いのです。当然野外でも人目につきにくいでしょう。また拾った個体も高野川の中流域で、池などの止水域ではありません。イシガメは川など流水域にも好んで住んでいることが知られています。古くから日本にいる分、より多様な環境に進出して、広く薄く生存している可能性が考えられます。日本固有種として末永く生き残ってほしいものです。

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 さて日本の陸水のカメといえばこちらも外すことはできません。スッポンです。写真は京都御苑の九条池のものです。40㎝以上はあろうかという大物でした。まさしく池の主の風格です。
 スッポンも日本にもともと住んでいたカメですが、水中にいることが多く人目につきにくいものです。ご承知のように食用として重用され、養殖もされていることから、自然分布なのか養殖個体が逃げ出したものか区別がつきにくいようです。

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 最後に江戸時代の浮世絵から(Wikepediaより)。歌川広重の名所江戸百景から深川萬年橋の図です。広重らしい近景と遠景を大胆に切り取った構図が見事です。

 なぜカメが縛られ吊るされているのか? この図は深川富岡八幡宮で行われていた放生会の風景を描いたものです。吊るされているのは手桶の柄です。おそらく手桶の中には魚などが入っていたのでしょう。カメは手桶から逃げるので縛られているのです。鶴は千年亀は万年にちなんで萬年橋のカメをモチーフとしたわけです。
 放生会はもとは仏教の行事で、殺生を戒める教えを象徴したものです。カメや魚、鳥などの生き物を自然に放つわけです。当時は一大イベントで、放生会のために多くの生き物が捕らえられ売られていたといいます。放つなら最初から捕らなければいいじゃないかと思いますが、儀式というものはそんなものでしょう。カメは放生会の代表的な生き物だったようです。もしや外来種のクサガメが日本に広まったのも放生会が一役買っていた可能性はないでしょうか? 放生会はもとはインドで発祥し、中国、日本と伝わってきました。放生会に必要な大量のカメの需要を満たすために、クサガメも海を越えて連れてこられたかもしれません。台湾、タイ、インドでは今でも放生用に亀や魚、蛙、貝、鳥などを売る店・業者が存在するとのことです。

 放生会が一般的なイベントではなくなった現代人にとっても、その記憶が残っているのでしょうか? 飼い切れなくなったカメを池に放すことに抵抗感はなく、むしろ良いことをしている感覚があるように思われます。本来そこにいた生物なら問題ありませんが、アカミミガメのような異国の生物を自然界に放つことが、どれほど自然界のバランスを崩すことなのか考えてほしいものです。