一昨年(2018年)9月、非常に強い台風が関西地方を直撃しました。台風21号です。大阪ほどではないものの、京都にも大きな被害をもたらしました。
 身近なところでは、住んでいるアパートのベランダの屋根(波板)が吹き飛び、外壁のタイルが崩落しました。向かいのマンションでは屋上の室外機が倒れ、落下していました。とにかく強風の恐ろしさを実感する台風でした。

 台風直撃の翌日(9月5日)外を歩いてみるとあちこちで大木が倒れていました。

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 出町柳の橋のたもと、この付近のランドマークともなっていた柳の大木がご覧のありさま。

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 大木の宝庫。京都御苑に足を踏み入れると異様な光景が展開していました。写真は御苑内から今出川御門を望んだもの。白い砂利道が倒木に覆われています。整備された御苑の風景を見慣れたものには異常な光景です。
 下は御所北西の一角。
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 多くの桜やクスノキなどが被害を受けていました。

 御苑以外にも植物園は長期休園となりました。そして北部山岳地帯。とりわけ植林地の被害は大変なもので、山里への道は長く通行止め、停電など影響は長引きました。現在もその爪痕はあちこちに残っています。

 近年地球温暖化の影響か異常気象、台風の大型化が常態化しています。地震や火山噴火、隕石の衝突などの自然災害は今のところ避けようのない自然現象ですが、異常気象は人間の活動による温暖化が影響している可能性が高いものです。何とか知恵を出して温暖化に歯止めをかけるような行動を人類ワンチームとなって進めることはできないものでしょうか?



 閑話休題

 以前(2015年)このブログで瓜生山にあるエドヒガン桜の巨木を紹介しました(リンク)。京都でも最大級の桜の巨木が、市街地のすぐ近くの山に埋もれていることに驚くとともに、嬉しく思ったものです。しかし、この記事に反響もなく、花の時期など折に触れては訪れていましたが、人に会うこともありませんでした。

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 一昨年も桜が咲いている頃を見計らって4月1日に訪れました。この木の花期はちょうど京都街中のソメイヨシノとほぼ一致しています。予想通りちょうど満開でした。写真では見にくいですが、緑の若葉の上部にピンクの花が広がっています。
 エドヒガンはソメイヨシノの母種で、ソメイヨシノ同様葉を出す前に花が咲きます。つまり写真の緑は桜の葉ではなく周辺の木々の若葉なのです。エドヒガンは根元から分かれた3本の幹を空高く伸ばし周りの木々の遥か上部に枝を広げています。

 木に近づいてみると桜の幹の小枝に、小さな紙片が挟んであるのに気が付きました。広げてみると達筆で「お会いできて光栄です。 2018.3.31 署名」と認められていました。日付からして前日です。桜を訪れた人が、出会えた気持ちを桜の木に伝えたかったのでしょう。この桜に対する敬意が伝わってくるようです。粋なことをするものです。他人の私信を盗み見するのも失礼なので元に戻しておきます。
 何年もこの木に通っていますが、初めて接した人の気配でした。

 この木の存在は私の知る限りネット上にも、文献上にも皆無でした。しかし2017年に
「森の巨人たち 巨樹と出会う―近畿とその周辺の山」 草川 啓三著 ナカニシヤ出版
という本が出たことに気が付き、読んでみると瓜生山のエドヒガンが紹介されているではないですか。本文では触れてはいませんが、このブログないしは私が報告した巨樹のデータベース情報(リンク)がきっかけになっているのでしょう。
 徐々に認知されてきているのでしょうか?

 さて、この年の秋、上で述べた台風21号が猛威を振るいました。山の様子はどうだろうと瓜生山に足を踏み入れたのは台風通過後、2週間たった9月18日でした。山の中も凄まじい荒れようです。倒木が登山道を遮断し元の地形が分からなくなるほどです。被害が多いのは植林帯、そしてこの付近に多いソヨゴやアカメガシワが多いようです。そしてエドヒガンにたどり着いて息をのみました。3本に分かれた主幹のうちの一本が根元から折れていたのです。
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 上の写真の右の幹は以前から菌に侵され枯死しています。真ん中の幹は無事でしたが折れた左の幹は中央から北側に大きく枝を広げ最も樹勢のある幹でした。それだけに強風の影響をもろに受けたのでしょう。桜の木としては破格の樹高(推定25m)も災いしたでしょう。

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 写真では大きさがわかりにくいですが、元の木の幹周は約3.6m。折れた幹も抱えきれな太いものです。

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 根元を見るとほぼ完全に折れているように見えます。多少でも繋がっていて生き残ることを期待したいですが難しいでしょう。なんとも痛ましく見ているのがつらくなります。個人的には台風の傷跡で最も心に残ったものでした。
 
 その後、無残な姿を見るのがつらく足が遠のいていましたが、翌年(2019年)花の時期(4月4日)に訪れました。
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 倒れて半年以上、人も訪れない山の中、誰が整理するわけもなく付近の様子に変わりありません。

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 しかし近づいてびっくりしました。倒れた幹の枝先一面に花が咲いていたのです。多数に分枝し、広大な面積に枝を広げていた幹が倒れたので、あたり一帯は足の踏み場もないジャングルのようです。そしてそれは桜の花のジャングルなのです。桜の生命力に感動し言葉になりません。
 倒れる前は非常に高い枝先に咲くために花の様子を詳細に見ることがかないませんでした。それが今は目の前、足の下にあります。なんとも不思議な光景です。ほんのりピンク色の花弁、根元がぷっくり膨れてエドヒガンの特徴が確認できます。桜の中を潜ったり、跨いだりその全容を見つくすのも一苦労です。桜の花に包まれてしばし二度とないであろう花見を楽しみました。

 なぜ花をつけることができたのか?幹に蓄えられた養分、水分で、文字通り最後の花を咲かせた。そう考えるのが妥当なのでしょう。しかし、完全に折れたと思っていた幹の一部は繋がっていて養分、水分を吸い上げて今後も生き残る可能性があるのではないか?さらには途中接地した場所から根を下ろし生き続けることができるのではないか?そんな可能性も考えたくなります。

 台風で倒れた桜に花が咲いた。この年の春はそんなニュースが京都の新聞にも載っていました。それは桂川河川敷のものでしたが、京都御苑でも見ることができました。そして瓜生山の山中でも誰に知られることもなく、京都でも最大級の桜の木が台風によって大きな被害を受けて、そして奇跡的に花を咲かせていたのでした。

2018年台風21号と瓜生山のエドヒガン桜
 花を咲かせる倒れたエドヒガンの巨木。
 ステレオ写真となっていて、左の写真を左の目、右の写真を右の目で見ると立体的にみえます(平行法)。

 さてこの桜のその後ですが、花が散った後、なんと若葉も生えてきて夏の間は緑の葉を繁らせていました。何とか生き延びてくれと祈るような気持でしたが、夏の終わりには枯れ始め、現在は幹なども生気を失ってきている感じです。もう今年の花は期待できないでしょう。
 しかし木全体としてはすべて倒れたわけではありません。真ん中の幹が天高くそびえています。なんとか樹勢を盛り返し、以前にもまして立派な巨木として生き続けてほしいものです。

 手元には倒れた枝に咲いた花の後、実ったサクランボの種が10粒ほどあります。非常に実付きが悪くこれだけしか得られませんでしたが、今春植えてみたいと思います。うまく育つでしょうか?楽しみです。