今回はちょっと趣向を変えて写真の技法の話です。 表題のピンホール、日本語で言えば針穴。 その針穴と写真が結びついて針穴写真を撮ってみたというお話です。 

 ご承知のようにカメラは感光剤とレンズから成り立ちます。 フィルム時代であれば化学反応を利用したフィルムが感光剤として使われました。 デジカメではそれが物理的な原理に基づくCCDなりCMOSといった撮像素子に置き換わったわけです。 しかしどちらもレンズは必須の要素。 これがなくして写真は成り立ちません。 ところがレンズが無くとも針穴つまり極小の穴を通過した光はレンズと同様、像を結ぶことが古くから知られています。 これを利用したのが針穴写真です。 昔から興味はあったのですが、今回ちょっとまじめに撮って見たという訳です。 デジカメだとこうした遊びも気楽にできるのがありがたいところです。

<針穴を作る>
 針穴写真にレンズは必要ありませんが針穴が必要です。 高精度な針穴レンズは市販もされていますが、そこそこの値段がします。 なんといっても自分で作った針穴で写真が撮れることを実感するのも楽しみのひとつです。 というわけでいろいろ情報を集めて作って見ました。 

 材料はアルミの空き缶。 つまりアルミの薄板です。 適当な大きさに切り抜き、縫い針を回転させながら小さな穴を開けます。 たくさん開けてルーペで確認してできるだけまん丸の、0.3mm弱の穴が開いたものを選びます。 周囲のバリも丁寧にヤスリで取り除きます。 最後に、髪の毛を穴に通して、風車のように吹いてくるくる回してやると、穴の周囲がうまい具合に丸く仕上がる気がします。
 穴の大きさは重要です。 基本的に小さいほど鮮明な像を結びますが光量も減るために露出時間も増えます。 さらに小さければ小さいほど解像度が上がるか、といえばそうも一概に言えません。 光の回折によりある程度以上小さくしても解像度は低下します。 最適な大きさは焦点距離、撮像素子(フィルム)の大きさにより変わりますが、0.2~0.3mm程度が良いようです。 この辺の理論的な詳細に興味がある人は他のホームページにあたってください。 針穴写真やピンホールカメラなどで検索すればたくさんのホームページがヒットします。
 できた針穴の開いたアルミ板をカメラに取り付けるために、ボディキャップに穴を開け、針穴の開いたアルミ板をビニルテープで接着します。
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 針穴の開いたアルミ板をボディキャップに貼り付けたものを裏側から見たところ。
 針穴から撮像素子までの距離が焦点距離になります。 私が使っているのはマイクロフォーサーズ規格のカメラですから25mm位にすれば35mmフィルム換算50mmの標準レンズの画角となります。 ボディキャップにそのまま貼り付けると標準域の画角となります(マイクロフォーサーズのフランジバック長が20mm、フランジバックとは撮像素子からレンズマウント面までの距離)。 針穴写真の特長を生かすには広角にしたほうが面白いと思います(後述)。 そこでボディキャップの裏に丸い穴を開けた厚紙を重ねて下駄を履かせて、針穴の位置がより撮像素子に近づくようにしています。 厚紙は墨汁で黒く塗っています(アルミ板も黒く塗るべきでした)。 今回は針穴から撮像素子まで15mm程度、つまり35mmフィルム換算で30mmという、使いやすい広角レンズの画角となります。 こうした観点からフランジバックの長い一眼レフより、ミラーレスカメラは針穴写真には適しているといえます。

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 ボディキャップを表から見たところ。 針穴とはいえ、穴を通して撮像素子が外部環境に晒された状態になります。 撮像素子のよごれは大敵です(後述)。 そこでボディキャップの表には薄いガラス板(顕微鏡観察用のカバーガラス)をビニルテープで貼り付けました。 針穴の開いたアルミ板が奥まった位置にあることが分かると思います。 画角がけられないようにボディキャップ、および厚紙の穴をある程度大きくしておく必要があります。

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 針穴のクローズアップ。

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 針穴レンズをカメラボディに取り付けたところ。 ボディキャップそのものですから薄く軽快です。


<撮影する>
 完成した針穴レンズのついたカメラを持って撮影散歩です。 カメラはレンズも薄く軽快。 焦点距離は一定。 ピントも固定。 露出もオートでOK。 なによりデジカメは高感度ですから、晴れていれば手持ちで撮影可能です。
 ここで露出について一言。 露出は絞りとシャッタースピードそして感度が利いてきます。 絞りは針穴の直径で焦点距離(針穴から撮像素子までの距離)を割ったもの。 今回の場合は焦点距離約15mm、針穴径約0.25mmでf60 程度。 おそろしく暗いです。 それでもEVFファインダーで撮影対象は確認できます。 光学ファインダーの一眼レフでは不可能でしょう。 そして感度は上がりますがシャッタースピードもぎりぎり手持ちで撮影可能な範囲に収まります。 すべてが潔く実に軽快に撮影できます。 デジタル版「写ルンです」といった感じ。 

 以下、撮影結果をどうぞ。

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 高野川から見た比叡山。
 如何でしょうか? レンズが無くともこんなによく写るとみるか、こんなボケボケでは使えないとみるか? 個人的にはマイクロフォーサーズという小さな撮像素子にしては良く写るなという感想です。 写真に求めることは様々です。 細かく鮮明にすべてのものがくっきり写っていることが必要な写真もあるでしょう。 一方、写真表現としてぼかした写真を撮るために、ソフトフィルターを使うこともあります。 針穴ならではの柔らかな写りを生かした写真が撮れたら面白いだろうと感じました。 なによりガラスを通さずダイレクトに、リアルな光を捉えているという事実が写りに、そして写真の見方に影響する気がします。 全体的にソフトフォーカスなので画角も望遠では情報量が少なくなり、面白くないように思います。 焦点距離が伸びればそれだけ露出時間も伸ばす必要が出てきます。

 撮影後パソコンで拡大してみてびっくりしたのが黒いごみが多数写りこんでいることです。 これで思い出したのが撮像素子についたごみが絞りを絞ると良く見えてくるという話です。 この針穴レンズの絞りはf60、おそろしく絞り込んだ状態で写しているわけです。 通常のレンズで写していては気がつかない微小なごみが、くっきりはっきり画面いっぱいに写りこんでいるのでした。 今回紹介している写真は撮像素子をある程度クリーニングした上で撮影していますが、それでも細かいごみは取りきれませんでした。 このあたりはデジカメで針穴写真を撮る上で一番注意しなければならないことのようです。

(2018年2月25日 高野川にて、シャッタースピード1/10秒、ISO1600)

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 北野天満宮の梅
 全体的にソフトフォーカスですが、注意して見れば全体的にピントが合っているとも感じられでしょう。 針穴写真の特徴のひとつにパンフォーカス、すなわち近距離、遠距離すべてのものにピントが合うということが挙げられます。 これも針穴写真で生かしたい特長です。 シャッタースピードは手持ちではちょっと苦しい1/6秒ですが(手振れ補正は入っていない)、もともとソフトフォーカスなので多少の手振れも目立たないということもメリットの一つでしょうか。

(2018年2月25日 北野天満宮にて、シャッタースピード1/6秒、ISO3200)

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 今回撮影して最も面白く感じたのが、直接太陽を入れるなど逆光で撮ると色とりどりのゴースト(光条)がでるということでした。 針穴による光の回折の結果なのでしょう。 いまどきの高性能レンズではありえない楽しいゴーストです。 

(2018年2月26日 高野川にて、シャッタースピード1/125秒、ISO250)

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 ゴーストを生かした絵が取れないかとあれこれ逆光で撮ってみました。 ミラーレスでは事前にゴーストの出具合も事前に知ることができるのがうれしいところ。

(2018年2月26日 高野川にて、シャッタースピード1/125秒、ISO800)

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 陽光の中のジョギング
 ちょっとしたカメラの角度、位置でゴーストの出具合は激しく変わります。 明るい周囲の中、暗いファインダー像でゴーストを確認するのも結構大変です。

(2018年2月26日 高野川にて、シャッタースピード1/40秒、ISO3200)

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 自転車でお出かけ
 同じような写真ですが。

(2018年2月26日 高野川にて、シャッタースピード1/60秒、ISO1600)

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 川上に向かって
 出町柳の鴨川デルタの亀石。 高野川を望んで。

(2018年2月26日 出町柳にて、シャッタースピード1/10秒、ISO3200)

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 おなじく鴨川デルタの川畔にある手押し井戸。 背景は大文字山。

(2018年2月26日、シャッタースピード1/6秒、ISO1600)

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 賀茂川から比叡山を望む。 自分の影が写り込んでいました。

(2018年2月26日、シャッタースピード1/10秒、ISO1600)



 これまでの針穴写真というと、解像度の低下を補うために、中判フィルムや印画紙など大きなフォーマットの自作カメラで撮影することが定番でした。 当然、焦点距離も長くなり、感光剤の感度の低さもあり、三脚に固定、長時間露出するのが当たり前でした。 一方、デジカメでは高感度が容易に得られ、その場で結果が見られるなどの特長を生かして、スナップ写真を撮るような感覚で撮影できることが驚きでした。 気の向いたものをぱちぱちと、手振れしないようしっかりホールドして撮影して歩くのはとても楽しい時間でした。 針穴写真の新たな楽しみと言えるのではないでしょうか。 写真の出来はともかく自己満足度はとても高いものです。 針穴レンズの作成も、身近な材料で容易に出来るので皆さんもチャレンジしてみてはどうですか? 

おまけ
 「ピンホールは魔術師」という表題について一言。 これを見てピンと来た人もいるでしょう。 そう、イギリスのロックバンド、ザ・フー(The Who)の1969年、世界初の記念碑的なロックオペラ「トミー」の中の名曲「ピンボールの魔術師」のもじりです。 1975年の映画版「トミー」の中でエルトンジョンが歌っている「ピンボールの魔術師」をご覧になりたい方はこちらをどうぞ(リンク)。 当然のことながらピンホールカメラとは何の関係もありません。 あしからず。